秀蔵は軍手と分厚いコートを脱ぎ、ポットから温かいほうじ茶を湯飲みに入れた。
男は煙草に火をつけ、壁に貼られた古いポスターを見ていた。水着姿の娘がにっこり微笑んでいる。四隅のセロハンテープは黄ばんで波打っている。
秀蔵は簡素なスチールの椅子に腰掛け、茶をすすると深く息を吐いた。
「その歳で雪かきは辛いだろう」男は水着の娘に言った。
くぐもった低い機械音が唸っている。
「坊ちゃまは知らんでええ事です」秀蔵は湯飲みに呟いた。
「そうか。そうだったな」男は煙草の先を灰皿で捻じ切った。
「坊ちゃまは、どうされるつもりか」
「俺のことはいい。案ずるのはお前だ。余計なことをする事はない」
むせ返る程の乾いた温風が吹き荒れている。
秒針が時を刻む。
「坊ちゃまは知らんでええ事です」秀蔵は瞼を閉じた。
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